正福屋ぱんじゅう物語り
時は、昭和から令和へ。
小樽から札幌を経て、“元の地”へと戻ってきた、不思議なぱんじゅう屋の物語。
Prologue ぱんじゅう(ぱんぢう)のこと
ぱんじゅうとは
『ほっかいどう お菓子グラフィティー』塚田敏信著より抜粋
パンと饅頭の中間なもの又はまんじゅうは蒸すのに対してパンの様に焼いたおまんじゅうという事でぱんじゅうとなったという説があります。
小樽では昭和32年時点、16軒ものぱんじゅう屋があったといわれています。
元々は、炭坑夫や港湾労働者等のおやつとして広まったそうで、大正時代の価格は12個で10銭でした。
中身は餡とえんどう豆が入っていたそうです。北海道では小樽から全道(後志管内、石狩管内、三笠、夕張、月形、余市、そして札幌)へと広がっていきました。
しかし戦後、砂糖の高騰や後継者がない等の理由で廃業していきます。小樽も、美味しいと評判だった『田中のぱんじゅう(甘党一番)』『ガンジロウのぱんじゅう』『たけやのぱんじゅう』といった有名店がすでに廃業しています。
Episode1 田中のぱんじゅう(甘党一番)
特に、『田中のぱんじゅう(甘党一番)』は小樽ぱんじゅうの最高峰といわれ、大変に人気があったそうです。
店主の田中さんは、兄が小樽の手宮で経営していた『田中のぱんじゅう』で焼き方を教わった後、昭和30年まで札幌は狸小路のぱんじゅう店『十八番』で働いていましたが、昭和31年に独立し、小樽市内で『甘党一番』を開業します。
数年後に、兄が三笠で新たに店を出すこととなり、田中のぱんじゅう跡地に移転したため、甘党一番の屋号なのにもかかわらずお客様からは「田中のぱんじゅう」と呼ばれる様になっていきました。
『田中のぱんじゅう(甘党一番)』の味は、田中兄弟によって小樽に根付いていったのです。そして、昭和42年頃に小樽駅前通りのタバコ屋さん隣の小さなお店に移店し、平成4年まで、小樽で一番おいしいぱんじゅうのお店として親しまれていました。
Episode2 狸小路の十八番
田中さんが十八番を去った後も、田中さんから教わったぱんじゅうのレシピを忠実に守り、女将の榎操さんは約60年もの年月、ぱんじゅうを焼き続けました。女将さんは名物おばあちゃんと呼ばれ、親しまれていました。
『十八番』は、ぱんじゅうだけではなく、あべかわ、おしるこ、ぞうに、コーヒー等、今でいう喫茶店のような、また、ラーメンもあり食堂のような、そんなお店でありました。
女将さんがぱんじゅうを担当し、息子さんがラーメン等の食事を提供していました。親子によって狸小路に根付き、平成9年の閉店まで札幌市民に愛されたぱんじゅうのお店でした。
Episode 3 ここでちょっと、正福屋店主・佐藤の話し
十八番から正福屋へ。と話しを進めて参りたいのですが、ここがミソ。店主・佐藤についてお見知り置きくださいませ。
佐藤は以前、狸小路で古着屋を経営しておりました。しかしながら古着ブームも去り、気が付いたら狸小路が中華系の方々で賑わっておりました。
そこでふと、思い出したのです。バイヤー時代に見た、ニューヨークのチャイナタウンでベビーカステラのお店に行列が出来ていたことを。
始めるなら、中途半端ではなく飛びっきり美味しいものを!と、兵庫県は西宮の名店・ベビーカステラを名付けた『三宝屋』さんを訪ね、特別にレシピを教わり、猛特訓の末ベビーカステラのお店を2007.7.22にオープンさせたのでした。
Episode4 十八番から正福屋へ
ベビーカステラのお店を始めてほどなく、お客様から「ぱんじゅうはやらないの?」ということを何回も言われました。
それもそのはず、正福屋の店舗は以前、ぱんじゅうのお店『十八番』があった場所です。閉店から10年という月日が経っているのにもかかわらず、ぱんじゅうの味を求めるお客様が多くいらっしゃいました。
そこで、店舗の大家さんである十八番の息子さんに「ぱんじゅうを是非復活させたい。」と相談した所、快くレシピを教えて頂く事ができました。2007.11に10年ぶりに狸小路のぱんじゅうが復活しました。
当時のレシピはあんこには合いますがクリームには合わないことが判り、息子さんと当時のレシピを守りつつ、繰り返し試行錯誤し美味しい生地に仕上げました。
Episode5 正福屋、小樽の地へ
小樽のぱんじゅう職人・田中さんからレシピを教わり、札幌は狸小路で半世紀、その味を守り続けた十八番。そして、その味を受け継いだ正福屋は、6年間狸小路(十八番跡地)で営業した後、2014.3.10 小樽へと移転する事となりました。
新店舗はなんと、小樽駅前通りのタバコ屋さん隣の小さなお店。
そう、『田中のぱんじゅう(甘党一番)』跡地です。
巡り巡って“元の地”へと戻ってきたぱんじゅう屋は、今日も変わらず、元気に営業しております。
あとがき
小樽へ移転当初、連日多くのお客様にご来店いただき、
『この味をまってた。』
『やっと美味しいぱんじゅうが食べられる。』等のお言葉をいただき、
田中のぱんじゅうの味が、小樽の人が愛していた味なんだと実感いたしました。
これからも変わらず美味しいぱんじゅうを焼き続けたいと思います。 店主・佐藤